2005年04月22日

すずきひろとも「婚姻の手続」

 久しぶりに新カテゴリを作りました。「遊牧民の本棚」。私こと為栗裕雅が読んだ本を紹介するだけですので「ありがちな内容」と思われるかもしれません。しかし、一読すれば「一味違う」のがわかる…はず。
 第1号に選んだのは、すずきひろとも「婚姻の手続」(新風舎)です。

 私がこの本を書店で手に取る可能性は、書名を見る限り通常あり得ません。しかし今回いろいろありまして現物を入手し、同時に一気に2回通読しました。
 まずこの「一気に2回通読」が可能であったという事実を指摘しておきたいと思います。B6判200ページ余り、厚さにして1cmほどのペーパーバックですから、ぱっと読めてしまうのは確かです。しかし、それだけではない。私が思うに、その要因は3つあります。
 この本の内容は、筆者のあとがきを引用すれば「私すずきひろともが、くろだみつこという女性と出会い、交際し、結婚して、新婚旅行に出かけるまでの一連の手続を事務的に列挙した記録である」ということです。「事務的に列挙」というだけあって、これ1冊で結婚の前後に必要な作業・事柄が全てわかります。上記以外に、マンションの部屋の選び方、家具の買い揃え方、結婚に伴って起こるさまざまな軋轢、生命保険の選び方、などなど。そういう実用的な側面を持った本であるということです。こういう側面は、知っているようで意外に知らないもの。よって、知的好奇心を満足させられました。これがまず1点。
 本書は一種の「実用書」でありながら、きわめて表情豊かに、しかし簡潔な文体で綴られており、そこが第2の長所であると考えられます。思うに、ひろとも氏の文章は非常に感覚的です。感情の流れを彼の脳を通して活字(文章)にしたものを読んだ時、彼の感情の流れがまさにそのまま目を通して流れてくる。一定の論理性はもちろん必要ですが、彼の場合はそれもクリアしている。ここが彼のすごさであり、本書にはそれが如実に現れていると思います。感覚や感情を論理の世界にいったん引き込んだ上で自己表現しないと気の済まない私は、この点を非常にうらやましく思う次第です。
 そうした「感覚的」な文章、しかも内容が自分の結婚にまつわるエトセトラですから、筆者が凡庸なら単なる「妻のろ」で終わってしまいます。ま、ある意味「妻のろ」の本ではあるのです。本書では年上のみつこ夫人のことを一貫して「みつこさん」と記述しており、みつこさんとみつこしにでも行ってらっしゃい、と茶々を入れたくなる部分もあります。本書がある程度「妻のろ」の色を持つのは、宿命として避けられないのかもしれません。しかし、この本の筆者は決して凡庸ではない。自分の妻についての記述が「うちの奥さん愛してるぜベイベー」で終わっているか否かを区別する指標の一つには、自己をどれだけ客観的に見つめて記述しているかがあると思います。本書は、筆者自身の人生観を文中に注意深く挿入することによって、単なる「妻のろ本」から脱しています。たとえば四字熟語でいう「一期一会」にあたることを本の最後の方で述べていますが、「今生の別れ」を念頭に置いて毎日を過ごすというのは、大切な人との永遠の別れという重い経験に裏打ちされてのことです(そのいくつかは私も事情を知っていますが、まさに「重い」経験です)。これは一朝一夕に達する見解ではありません。そうした箇所は他にもありますが、とにかく「単なる妻のろ本ではない」というのを3番目の長所として挙げておきたいと思います。

 あとがきによれば、感情的な側面を「なるべく排除して、あくまで起こった事象、特にさまざまな局面における意思決定のプロセスを淡々と書き連ねていくことに努めた」とあります。しかし、この本の持ち味は、それでもにじみ出てくる感情の部分にある。私はそう思います。
 彼は「幸福な結婚」をしたんだろうと思いますね。ヒューヒュー。

 すずきひろとも「婚姻の手続」新風舎、2005年
 定価1500円+消費税 ISBN4-7974-5934
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蛇足
posted by 為栗 裕雅 at 08:39| 東京 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | 遊牧民の本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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